こんにちは。のりまきです。
今日も今日とて教案作成!がんばっていきましょう。
さて今回は、教案作りの中でも比較的、地味⁉な「語彙導入」について解説していきます。教案作成というと、ついついメインの文型ばかりに気を取られがちで、語彙導入はさくっと「紙芝居」で終わらせている方も多いのではないでしょうか。養成講座でそう習ったとか。そもそも導入方法については習ってないとか。
「語彙はストーリーで入れる」が基本です。特に初級は。
今回の記事では、これまで「みんなの日本語」を始めとする初級テキストで「紙芝居」的に語彙導入をしていた方やそもそも語彙ってどうやって教えるの⁉といった方に少しでも参考になればと思い書いています。
今回、ご紹介するストーリー的語彙導入を修得すれば、ただ「紙芝居」的に教えるより教育効果も高く、授業全体の組み立てにも大いに役立つはずです。
それではいってみましょう。
1、紙芝居的語彙導入とは?そのメリット・デメリット。
では、そもそも紙芝居的語彙導入って何?というところから確認しておきます。
紙芝居的語彙導入
…準備した絵カード(導入語彙)をあたかも紙芝居を見せるかのように連続して導入していくこと。たとえばこんな↓感じです。
例:導入語彙みんなの日本語6課(動詞「食べます・飲みます」)
【授業開始】
T:では6課の新しいことばです。勉強します。
見てください。これは何ですか。 ※「食べる」の絵カード指して
S:食べます
T;そうですね。「食べます」ですね。
→導入語彙の意味整理、または簡単な口頭ドリル。
ではこれは何ですか? ※「飲みます」の絵カードに変えて
S:書きます。
T:そうですね。「飲みます」ですね。
…の様に絵カードを指して学生に問い、続けて導入していく方法です。最初にまず、新しい言葉を勉強します。とか、新しい言葉です。などと明示してから、導入していきます。もちろん導入した後に意味など説明は加えます。
実際の教案だと、こんな感じです。↓(意外と多いのでは!?)
この紙芝居的語彙導入のメリット・デメリットはこうです。
- 文型導入とのつながり、連続性がない。
- 語彙の定着・指導効果が微妙。
- 単調でつまらない。
またメリット・デメリット以外にも、紙芝居的導入の方が良い場合があります。例えば「みんなの日本語」の8課のように形容詞をひたすら入れなければならないようなときなどです。
2、ストーリー的語彙導入とは?そのメリット・デメリット。
では、次にストーリー的語彙導入のご紹介です。
ストーリー的語彙導入とは
…新出語彙をあらかじめ設定したトピック(話題・場面)の流れの中で導入していくこと。トピックから始まる一連の流れをここではストーリーと言います。
たとえば、トピックを「学生の1日」のように設定し、毎朝のルーティンから語彙を入れて行きます。こんな↓感じです。
例:導入語彙みんなの日本語6課(動詞「食べます・飲みます」)
【授業開始】
T:みなさんは朝、何時に起きますか。
S:7時です、8時です。。。 ←極端に早い時間・遅い時間にリアクション入れながら。
T:そうですか。では、朝起きます。何をしますか?
S:…ごはんを…
T:食べますね。ごはんを食べます。朝ですから、朝ごはんを食べます。
↑その際上記のような絵カードを提示します。こちらは「みんなの日本語の公式絵教材」にすこ~しだけ手を加えたものです。
S:朝ごはんを食べます。
T:はい、いいです。
→導入語彙の意味整理、または簡単な口頭ドリル。
T:Sさんは朝ごはんを食べますね。では、これは…?
→先に提示した「食べます」の絵カードの「ジュース」を示して。
S:ジュース…
T:そうですね。ジュースを・・・
S:飲みます。
T:はい。ジュースを飲みます。Sさんは、ごはんを食べます。そして、ジュースを飲みます。
→導入語彙の意味整理、または簡単な口頭ドリル。
→「そして」は8課で出て来る表現ですが、他に代用できる自然が表現がないため気にせず使用します。
・・・この様な感じで、順に語彙を入れていきます。
これがストーリー的語彙導入です。今回は、分かりやすくするため、6課の動詞導入を例にしました。
なんとなくお分かりでしょうか。
ストーリーといっても何も0から創作するというわけではもちろんなく、ただ日々起きていることを書き起こしていくだけです。
さて、そんなストーリー的語彙導入のメリット・デメリットを紙芝居的語彙導入との比較で挙げてみました。
- 文型導入につながりを持たせられる。というか文型も込みのトピック。
- 学生の授業参加を促すことが出来る。→ 「つまらない」から「楽しい」へ
- 定着に期待できる。ストーリーで教えるので、場面、場面での印象に残ります。
- 慣れると与えられた語彙だけで、すぐストーリー展開が思いつくようになる。
- 教師自身の教案定着にもなる。←教案を振り回すこともなくなる。
- 語彙導入の流れを考えるのが大変
デメリットに関しては、当たりまえといえば当たり前のことです。最初のうち慣れるまでは大変かもしれません。私が語彙導入で一番大切にしていることは、メリットにも書きましたが、学生の授業参加=学生とのコミュニケーションです。それは紙芝居ではできません。
3、【教案実例】みんなの日本語14課、ストーリー的語彙導入のやり方。
それでは、実際にストーリー的語彙導入のやり方について解説します。
今回は、「みんなの日本語14課」における語彙導入の実例をご紹介します。ああ、こんな感じでやれば良いのね、みたいに思っていただければ幸いです。
で、なぜ14課なのかというと、みんなの日本語の14課と言えば動詞の「て形」を習う非常に重要な課です。初めての型なので、その分新しい語彙(動詞)もたくさん出て来ます。
「て形」:日本語教育における動詞の活用の一つ。「書いて」、「見て」、「泳いで」のように「~て」「~で」で終わる形。学習者が最初に習う動詞の活用で、ここでつまずいてしまわないよう注意しなければなりません。
みんなの日本語14課・新出語彙
まずは、導入すべき語彙の一覧です。14課では、形容詞がない代わりに「動詞」をがっつり導入することになります。なんせ「て形」導入の課ですからね。
動詞
(喫茶店に)入ります(喫茶店を)出ます(住所を)教えます 開けます 急ぎます
消します コピーします 閉めます 座ります 立ちます 使います 点けます 手伝います
止めます 取ります 話します 降ります 待ちます 見せます 持ちます 呼びます
名詞
お釣り 答え 塩 読み方 読み方 住所 地図 電気 名前 パスポート 問題 読み方
エアコン
副詞・その他表現
あとで あれ? ~方 さあ すぐ また まっすぐ もう ゆっくり これでお願いします
新出語彙導入の考え方・前提条件
さて、語彙導入の前に大事なことを1つ。新出語彙といっても
全てを導入するわけではない。
ということです。少し意外かもしれませんが。なぜかというと、語彙の中にはたとえば、みんなの日本語13課で出て来る「欲しい」のように語彙(イ形容詞)でありながら、その課のメイン文型ともいうべきものがあるからです。
つまり、語彙導入の考え方として、語彙は語彙(の時間)、文型は文型(の時間)と区別して教えることが基本にあるということです。
反対に特に区別はしていない(教師任せ)という学校もあります。この辺りは、日本語学校の考え方にもよりますので、心配なら一度学校の常勤教員にでも確認しておけば良いでしょう。
ちなみに、私の学校では語彙導入の優先順位として以下のようにしています。(上から重要)
- 動詞
- 形容詞
- 副詞
- 名詞(特に固有名詞)
- 会話表現(れい:あの~ みんなの日本語2課)
動詞・形容詞は。どうしてもストーリーにまとまらず、付け足しのような感じになってしまうこともありますが、とにかく入れます、それが紙芝居でも。(初級のうちは)
固有名詞や会話表現などは基本入れません。そういった語彙は、その課の最後(教科書の会話練習)にまとめて導入します。
語彙と文型をはっきり区別して教えている学校の場合、導入できなかった語彙があれば申し送り(次の教師に引き継ぎ)をすることもあります。
国内の日本語学校ではチームティーチング制を採用していることが多いです。1つのクラスを教師が日替わりで教えるということですね。
繰り返しになりますがその語彙がメイン文型となるような場合は、別日の文型担当が導入します。
みんなの日本語14課語彙導入の教案実例・私はこんな感じで語彙を入れてます。
では、私が実際の授業で使った教案をご紹介します。あくまで新出語彙(動詞)の部分だけですが、こんなものかと一つ参考にしてもらえればと思います。
※教案の味方
MM:Mimicry-Memorization practiceの略(ミム・メムとも、教師の発話を復唱する練習)
PC:picture-card(絵カード)、FC:Flash-card(語彙カード)
T:教師、S:学生
①使います ②出ます ③話します ④急ぎます ⑤止めます ⑥入ります
⑦座ります ⑧立ちます ⑨コピーします ⑩持ちます ⑪手伝います ⑫呼びます ⑬見せます ⑭教えます ⑮点けます ⑯消します ⑰開けます ⑱閉めます ⑲降ります ⑳待ちます ㉑取ります
T:みなさん今日は何時に起きましたか?何をしますか?
S:・・・時です。~をします。
T:そうですね。~ますね。でも朝はあまり時間がありませんから忙しいですね。
これは何ですか?
→PC、FC ドライヤー
MM
T:ドライヤーです。みなさんはこのドライヤーを【①使います】か。
→PC、FC 提示
S:はい、いいえ、
T:S1さんは、ドライヤーを使いますね。
MM:パソコンを、ノートを、辞書を、鉛筆を
T:はい、良いです。
みなさんは、これから学校へ行きますから、家を【②出ます】ね。
→PC、FC 提示
MM:喫茶店・カフェ(PC)を、お店を、会社を、学校を
T:はい、良いです。では、みなさんは、いつもだれと学校へ来ますか?
S:ひとりで、友だちと・・・
T:そうですか。みなさんは、いつも友だちと学校へ行きます。
みなさんは友だちとどうしますか?
S:・・・【③話します】
T:そうでうすね。友だちと【③話します】ね。
→PC、FC 話します
MM:にほんごを はなします、英語を、中国語を…、
T:友だちと話します。は楽しいですね。
でも、大変です。学校は9時からです。でも時間はいま8時40分です。
時間がありません。みなさん、どうしますか。
S:・・・【④急ぎます】
T:そうですね。【④急ぎます】ね。
→PC、FC 急ぎます
MM:学校に、会社に、
T:そして、みなさんは、学校に着きました。8時50分です。良かったです。
見てください。学校です。
それから、友達のSさんも学校へ来ました。Sさんは、自転車で学校へ来ました。
自転車はどうしますか?
S:・・・止めます。
T:そうですね、自転車を学校に【⑤止めます】ね。
→PC、FC 止めます
MM:車を、自転車を、バイクを、
T:それから、みなさんは教室(の中)に・・・【⑥入ります】
→PC、FC 入ります
S:・・・入ります。
MM:喫茶店・カフェ(PC)に、お店に、レストランに、
T:みなさんは教室に入りました。
教室に何がありますか?
S:机、イスがあります
T:そうですね。
机があります、イスがあります。みなさんはイスに・・・
S:・・・座ります。
T:そうですね。イスに【⑦座ります】
→PC、FC 座ります
T:では、これは?
→PC・FC 立ちます
S:・・・立ちます
T:そうですね。【⑧立ちます】ね。「座ります」と反対です。 ※座ります⇔立ちます
MM:
T:あっ。でも、みなさん、大変です!教科書がありません。教科書は家です。
どうしますか?
S:・・・借ります・【⑨コピーします】
T:そうですね。(友だちの)教科書をコピーしますね。
→PC・FC コピーします
MM:教科書を~、レポートを~、
T:はい、ではコピーをしました。もう大丈夫です。
そして、先生が教室に来ました。見てください。
→PC荷物を抱えた教師 提示
T:先生、どうですか。荷物がたくさんあります。大変ですね。
親切なみなさんはどうしますか?
S:・・・(荷物を)持ちます。
T:そうですね。【⑩持ちます】ね。そして、みなさんは先生を【⑪手伝います】。
→PC、FC 持ちます 提示
→PC、FC 手伝います 提示
(持ちます) MM:カバンを、荷物を、机を、イスを
(手伝います)MM:仕事を、先生を、友だちを、
T:では、これから授業です。先生は最初に何をしますか?
S:名前を言います・・・【⑫呼びます】
T:そうですね。最初に学生の名前を呼びますね。
→PC・FC 呼びます
MM:名前を、先生を、タクシーを、救急車を、
T:それから、今日は、宿題がありましたから、宿題をどうしますか?先生に…
S:・・・【⑬見せます】
T:そうですね、宿題を先生に見せます。
→PC・FC 見せます
MM:パスポートを、外国人登録証を、教科書を、
T:それから答えを言いますね。でも友だちは宿題の答えが分かりません。
親切なみなさんはどうしますか?宿題の答えを・・・。
S:・・・教えます。
T:そうですね。宿題の答えを【⑭教えます】ね。
→PC・FC 教えます
MM:住所を、電話番号を、教室を、
T:はい、それから少し教室が暑いです。先生に言います。
先生はどうしますか?エアコンを…
S:エアコンを・・・【⑮つけます】
→PC・FC 点けます
MM:エアコンを、テレビを、ラジオを、電気を、
T:そうですね。ではこれはどうですか?
→PC・FC 消します
S:・・・消します
T:そうですね。エアコンを【⑯消します】ね。
MM:テレビ、ラジオ、
T:はい、それから、エアコンを長い時間つけましたから、教室の空気が良くないです。
どうしますか?
S:窓を【⑰開けます】
T:そうですね。窓を開けますね
→PC・FC 開けます
MM:窓を、ドアを、カバーを、
T:では、これはどうですか?窓を・・・
→PC・FC 閉めます
S:・・・閉めます
T:そうですね。窓を【⑱閉めます】
MM:ドアを、窓を、
T:では時間は〇時です。授業が終わりました。 大変です。見てください。
→PC、FC 降ります 提示
S:・・・雨が降ります。
T:そうですね。学校の外は雨が【⑲降ります】ね。
MM:雨が 、雪が…
でも、友だちもわたしも傘がありません。たいへんです。どうしますか?
S:・・・【⑳待ちます】
T:そうですね。雨が終わります、学校で【⑳待ちます】ね。
→PC、FC 待ちます 提示
MM:友だちを、恋人を、タクシーを
T:みなさんは、学校で待ちますが、見てください。アルバイトのお知らせがあります。
→PC フリーペーパー
みなさんは、時間がありますから、この雑誌をどうしますか?
S:・・・【㉑取ります】
T:そうですね。雑誌を取りますね。そして見ますね。
→PC、FC 取ります 提示
MM:紙を、はしを、お皿を、
T:はい、良いです。これが、今日の新しい動詞です。もう一度言ってください。
MM
たくさんありますが、がんばりましょう。
4、まとめ
ストーリー的語彙導入は、いかがだったでしょうか。何となくイメージできたのではないでしょうか。ストーリーとは言っても、指輪物語のような創作活動をするわけでは、もちろんありません。
あくまでも学生の日常生活の一場面を切り取ったよくある場面です。そこに多少手を加え形にしていくわけです。途中途中で、かなり強引とも思える設定(展開)もありますが、構いません。
細かい設定上の不具合を気にするより、語彙導入をしている間きちんと学生とコミュニケーションを取れているかを常に意識しましょう。
ストーリーで語彙を入れることは、最初は大変かもしれませんが慣れれば語彙を見ただけで大体のストーリーが浮かんできます。
大丈夫です!
かんたんに入れられる。