こんにちは。
のりまき、です。
突然ですが、初級の授業で一番大切なのは何だと思いますか。次の4つから選んでください。
1、適切な場面導入
2、模範的な質の良い例文
3、明瞭な文法説明
4、圧倒的なドリル
5、溢れ出る情熱
お分かりですか?答えは。
「4、圧倒的なドリル」です。もうこれにつきます。いかに模範的な例文で、きれいな流れの教案が書けたとしても、このドリルがなければ(少なければ)全く意味がありません。特に長引くオンライン授業で思うようにドリルが出来ていないせいもあり、アチーブメントテストなどの成績はそれはもう惨憺たる結果となって表れています。
もう一度言います。
初級は圧倒的な(量の)ドリルが全てです!
オンライン授業を通じて、ドリルの重要性を再確認したのりまき、でございます。
さて、そこで今回は日本語教育におけるドリルにはどんなものがあり、また実際の授業ではどう教えたら良いのかという基礎の基礎をお伝えします!これから日本語学校の模擬授業を控えているという方や日本語教師になって間もない方へ贈ります。
そもそもドリルとは?
教室活動の中で行う口頭練習のこと。教師がキュー(合図)を出し、それに学生が答える形式。
例)では言ってください。
T:食べます → S:食べます
効果的なドリル その1 反復練習(ミムメム練習・コーラス練習)
効果的なドリル その1 反復練習。ドリルの基本中の基本とも言うべきもの。学校(養成所)によっては、ミムメム(mimicry-memorization:ミミックリーメモライゼーションの略)練習ともコーラス練習とも呼ばれます。教師が言ったことを、学生がそのまま復唱します。先に紹介した「T:食べます→S:食べます」がそれですね。
この反復練習はレベルに関係なく初級から上級まで最もよく使われます。ポイントは、正確性です。教師の発話をそのまま、復唱させることが大切です。そのため、教師はアクセントなど言い間違えたりしていないか注意して聞きます。
単純なので、扱いやすいので本当に都度言わせます。扱い方としては、教師からまず全体に。その後、個別に指名して答えさせます。まあ基本的にはクラス全体に向けたドリルです。
効果的なドリル その2 代入ドリル
効果的なドリル その2。代入ドリル。これも基本中の基本とも言えるドリルです。
文の一部分を空らんにし、そこに教師がキューを与え学生が全文を答えるというもの。空らんは1か所から2か所が適当です。初級の前半でよく使われます。
【空らん1つ】
T:学校のとなりに( 郵便局 )があります。
S:学校のとなりに( 郵便局 )があります。
T:コンビニ ←キュー
S:学校のとなりに( コンビニ )があります。
T:ホテル
S:学校のとなりに( ホテル )があります。
【空らん2つ】
T:( 机 )の上に( えんぴつ )があります。
S:( 机 )の上に( えんぴつ )があります。
T:テーブル、りんご ←キュー
S:( テーブル )の上に( りんご )があります。
T:机、教科書
S:( 机 )の上に( 教科書 )があります。
効果的なドリル その3 変換ドリル(変形・転換ドリル)
効果的なドリル その3。変換ドリル。こちらは変形、転換ドリルとも呼ばれます。このドリルも初級全般にわたって使われる必須のドリルと言えます。単語レベルから文レベルまで幅広く使え、板書する必要性もなく口頭のみで完結できるメリットがあります。変換としては、肯定→否定、現在→過去、ます形→Vフォーム(て形、ない形など。。)反復練習の次によく使われるドリルと言えます。
【語彙レベル】
T:ない形でいってください。食べます。←キュー
S:食べない
T:書きます
S:書かない
【文レベル】
T:普通体で言ってください。昨日何もしませんでした。←キュー
S:昨日何もしなかった
T:母が買ってくれました。もらいました ←キュー
S:母に買ってもらいました
効果的なドリル その4 結合ドリル(2文1文ドリル)
効果的なドリル その4。結合ドリル。別名、2文1文ドリル。これもメジャーでよく使われます。初級全般使われますが、後半の方が威力を増します。単純なドリルですが、フラッシュカードなどを見せず、口頭のみで実施した場合、視覚情報がないため難しくなります。そのため、初級後半になるとこのドリル自体について来られない学生も出て来ます。その分、非常に効果は高いので、提出の仕方をよく考えた方が良いかもしれません。
T:これはパソコンです。これは雑誌です。←キュー
S:これはパソコンの雑誌です。
T:これは黒いです。これは車です。
S:これは黒い車です。
T:待っていました・恋人は来ませんでした。
S:待っていたのに恋人は来ませんでした。
T:地震です・ビルが倒れました
S:地震でビルが倒れました
効果的なドリル その5 拡大ドリル(拡張ドリル)
効果的なドリル その5。拡大ドリル。拡張ドリルとも呼ばれます。この拡大ドリルとはその名の通り、最初は単語1語から始まり、その単語に次々と色々な要素を加え長文にしていくドリルです。日本語ならではのドリルとも言えます。初級前半でよく使われます。
T:勉強します(ベース文)
S:勉強します。
T:日本語(を)
S:日本語を勉強します
T:学校(で)
S:学校で日本語を勉強します
T:友だち(と)
S:友だちと学校で日本語を勉強します
T:昨日
S:昨日、友だちと学校で日本語を勉強しました
※助詞がないとさらに難度は高くなりますので、クラスのレベルに応じて加減しましょう。
効果的なドリル その6 応答ドリル(Q&A)
効果的なドリル その6。応答ドリル。Q&Aとも呼ばれます。教師が学生に、あるいは学生が学生に質問し答えさせるというものですが、答えは予め質問者の期待するものになるように展開します。または、その文型を使いさえすれば、答えはあえてしばらずに自由にさせることもあります。
T:リーさんは何をしていますか。(絵でリーを指す。)
S:自転車に乗っています
T:そうですね。では、オウさんは何をしていますか。(絵でオウを指す)
S:新聞を読んでます。
T:昨日、ゲームをしましたか。(いいえ)
S:いいえ、しませんでした
T:もう宿題をしましたか。(はい)
S:はい。もう(宿題を)しました。
T:グェンさん、漢字はどうですか。
S:難しいです。←自由回答
T:王さんはどうですか。
S:簡単です。
効果的なドリル その7 前件・後件作成
効果的なドリル その7。前件・後件作成。このドリルは初級の特に後半から上級まで幅広いレベル帯で使われます。教師が文の前半または後半を言い、それに対し学生がその続きを答えたり前半部分を答えたりします。文の形、意味用法がきちんと入っていないと答えられなかったり、とんちんかんな答えになってしまったりしますので、定着具合を見るのにちょうど良いです。学生にとっては、難しいドリルになっています。上級クラスでN1文法を教える際にもドリルとしてよく使っています。
前件・後件はそれぞれ板書したり口頭で済ませたりします。
T:私が文の前を言いますから、みなさんは全部言ってください。←全て口頭
T:昨日遅くまでゲームをしていたので、【 自由回答 】
S:昨日遅くまでゲームをしていたので、寝坊してしまいました。
T:【 自由回答 】のに、全然分かりませんでした。
初級日本語のドリル・まとめ
いかがでしょうか。日本語の授業では数あるドリルを授業の特にレベルに応じて使い分けるイメージです。その1の反復練習やその6応答ドリル、その7前件後件作成などは初級から上級まで広く使われます。
そして、このドリルはただいくつかパターンを変えて実施するだけでは足りません。大切なのは、キューの数です。
目安として
1文型につき「ドリル3種×キュー10個」と覚えておいてください。
導入が終わって、ドリルなしにいきなり教科書のB問題で入る先生がいますが、それは止めてください。導入したものを「定着」させるためにドリルがあるわけなので、忘れず行いましょう。
「初級は機械的に多量のドリルをこなす」ことが重要です。
また最近はPPTなどのスライドを対面授業でもメインに使うことが増えて来ました。そうなると、ついPPTの画面上でドリルを完結させてしまいがちですが、「視覚情報なしに口頭のみで行う」ことも大切なことです。PPTからいったん離れ、言葉のみで練習するという原点に立ち返ってみることも意識してみてください。
T:では、言ってください。がっこう。
S:がっこう
T:郵便局
S:郵便局